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第1回セミナー
「人権とガバナンス」開催報告

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講演1 「人権とガバナンス:世界で企業に求められていること、人権侵害の実態に触れながら」

1. サプライチェーンと人権―透明性に向けたHRWの取り組み


講師:
ヒューマン・ライツ・ウォッチ
日本代表 土井 香苗氏

(1)サプライチェーンの透明性の必要性

サプライチェーンと人権について、注目を集めるきっかけになったのが、2013年にバングラデシュで起きたラナプラザ・ビル倒壊事故です。この事故では、1,100人以上の縫製労働者が死亡し、2,000人超が負傷しました。
また。パキスタンの縫製工場の大規模火災でも、350人を超える従業員が犠牲になりました。しかし、これらの工場で製品を製造している企業を特定することができず、サプライチェーンにおける人権侵害の防止が困難な状況にあります。
企業のサプライチェーンの透明性を高めることで、人権への悪影響を特定・評価し、回避することができるようになります。この取組みは、企業の人権デュー・デリジェンス(*1)を強化するための非常に重要なステップです。

(*1)人権デュー・デリジェンス(人権DD)
企業が事業活動の中で、社内だけでなくそのサプライチェーン・バリューチェーン上の強制労働やハラスメント、差別などの人権リスクを特定し、それを軽減・予防・救済する措置を取ること。

(2)人権デュー・デリジェンスの必要性

サプライチェーン上に人権侵害が存在しています。たとえば、多くの金鉱・ダイヤモンド鉱山で、子どもが有害危険な作業に従事し、時には死亡しています。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(以下「HRW」という。)は、以下のような人権デュー・デリジェンスの施策を提言してきました。

  • サプライチェーン全体のトレーサビリティの確立
  • サプライヤーの公開
  • サプライヤーに対する行動規範の策定・契約条項に挿入・公表
  • 人権リスクの評価と対応
  • デュー・デリジェンス報告の公開
  • 労働者権利の確保、独立した第三者による監査

HRWを中心とした国際人権団体は、主にアパレルや靴のサプライヤーに対し「サプライチェーンに関する透明性の誓約”透明性制約”」を要請しています。全面的に情報を公開し誓約した企業もあれば、誓約しない企業もありますが、世界的には情報を公開する方向に向かっています。
H & M(スウェーデンのアパレルメーカー)は、ホームページにサプライヤー名や製品がどこの工場で製造されたかを公表しており、透明性が高い例です。

2. 人権ガバナンスをめぐる世界の動き

(1)ビジネスと人権に関わる企業の現状

アパレル・タバコ製品・チョコレート・パーム油・シーフードなどの生活用品の生産をめぐり児童労働や強制労働、劣悪な労働環境、環境汚染による人体被害や土地の収奪、紛争の激化などが発生しています。

(2)国連によるビジネスと人権に関する指導原則(3つの柱)

2011年 国連人権理事会は、全ての国と企業が尊重すべきグローバル基準を定め、以下の3つの枠組みを提示しています。

  1. 人権を保護する国家の義務
  2. 人権を尊重する企業の責任
  3. 効果的な救済にアクセスする被害者の権利の保障

各国は、国連のビジネスと人権に関する指導原則に沿って、法律を制定し、国内での行動計画がたてられています。
日本では法律が制定されていませんが、世界市場で製品を供給する日本企業は各国の法律に則って人権を尊重した企業活動が求められています。世界市場に製品を供給していない企業でも、国連によるビジネスと人権に関する指導原則に基づいた企業活動が期待されています。

(3)中国・新疆ウイグル自治区での人権侵害

中国政府は否定していますが、中国・新疆ウイグル自治区での強制労働、強制収容について、人権保護団体からの報告があります。人権保護団体は、新疆ウイグル自治区での人権侵害を終わらせるための行動(Coalition to end forced labor in the Uyghur region Call to Action)を呼びかけています。

3. サプライチェーンにおける人権侵害の事例

  • アルミニウムの原料・ボーキサイトの採掘がもたらす人権侵害
  • 中国政府によるウイグル他テュルク系ムスリムを標的にした人道に対する罪
  • 宝飾品・時計ブランド会社のサプライチェーンにおける人権侵害
  • コンゴ共和国でのパーム油製造過程における人権侵害と欧州開発銀行の投資
  • ザンビア政府の鉛汚染への不十分な対処による子供の人権侵害

4. テクノロジーと人権

テクノロジーの分野でも、さまざまな人権侵害が指摘されています。たとえば、完全自律AI兵器への部品の提供が問題となっています。完全自律AI兵器(キラー・ロボット)は、人間が介在しない兵器で、標的を選択し攻撃します。各国は、完全自律AI兵器の開発を進めています。実際、誤爆で民間人が犠牲になること、人間が責任を負わないことなど倫理上の問題があります。
HRWは、完全自律AI兵器を禁止する国際的な条約づくりが必要であることを提起しています。

人権を尊重した企業活動のポイント

人権先進国のヨーロッパでは、サプライチェーンにおける人権侵害が明らかになったメーカーの商品の不買運動も起こっています。人権侵害に関する情報は、SNSを通じてまたたく間に拡散します。逆に企業のSocial Goodな取組みや姿勢についても、SNSから拡散されます。
企業の人権尊重の姿勢によって、商品の販売状況が左右し、企業価値も変わります。