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第8回セミナー
「知的財産権と企業経営」開催報告

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講演1 「企業経営と情報倫理 (情報モラル思考からデジタル・シティズン思考へのステップアップ)」

1.(事例)企業の情報発信と人権を考える (ポリティカル・コレクトネス)


講師:
岐阜聖徳学園大学教育学部 教授
芳賀 高洋氏

『デジタル・クライシス白書』(シエンプレ株式会社、シエンプレ デジタル・クライシス総合研究所)によると、2021年にネット上で「炎上」した月間平均割合は、下表の通りビジネスで情報を発信している人や法人が多いことが明らかになっています。

著名人(インフルエンサーなど) 39.1%
法人等 33.1%
一般人 27.9%

(出典:https://www.siemple.co.jp/document/hakusyo2022/ から抜粋)

業界別にみると、娯楽・レジャー業、IT・メディア業が多くを占めています。

(1)炎上事例

人種差別、民族的マイノリティ、ジェンダー、性的マイノリティに基づいたハラスメント・偏見が過剰に表現されたり、偽情報が加えられて信憑性がなかったりしたとき、炎上することがあります。炎上するか否かは、表現の手法が大きく関わっています。

(2)企業の情報発信の「配慮」 (ポリティカル・コレクトネス)

ポリティカル・コレクトネスの例

「インディアン」→「ネイティブ・アメリカン」
「看護婦」→「看護師」
「保母」→「保育士」
「親」→「保護者」
「肌色」→「うすだいだい色」
ここ数年で、基準がシビアになっている。
※美白、ホワイト→使用しない。

上記のように、ポリティカル・コレクトネスに配慮した表現が求められています。アンケートなどで性別を尋ねる場合、男性、女性のほかに、「その他」、「回答しない」という項目を設けることがありますが、最近は性別を質問しない傾向があります。
人権という観点で気になる表現があるときは、代替案を考えることをお勧めします。
企業が情報を発信するときは、以下のような発信者としての責務があります。

①倫理的・法的・社会的責任

社会的に配慮し、環境面についても配慮します。

②説明責任(アカウンタビリティ)

客観的・合理的に説明が求められます。ポリティカル・コレクトネスに配慮し、別の表現ができるかどうか、創造的に考えます。

③応答責任(レスポンシビリティ)

問い合わせやクレーム等に対して、誠実に応答しなければなりません。

2. 情報倫理学:情報モラルの思考からデジタル・シティズンシップの思考へ

コンピュータ倫理学、情報倫理学は、1980年代の半ばから後半にかけて、アメリカや日本の一部の学問分野で認知され始めました。
日本では、1970年頃に「情報社会論」のアンチテーゼとして「情報公害論」が一時期盛り上がりました。
その後、臨時教育審議会は教育の情報化、教育の国際化を審議し、1987年第3次答申で「情報モラル」が提言されました。同じく1987年、情報処理学会は情報倫理学の重要性を提唱しました。1988年には、アメリカのコンピュータ倫理(個人情報の漏洩、著作権)が紹介されました。

2000年代初頭、情報倫理学の課題として、以下が提示されました。
(出典:https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/900020196/120702eip_ocha.pdfから引用)

【しつけ論的レベル】

パスワード、マナー・エチケット、剽窃・盗用

【消費者教育的レベル】

プライバシー・個人情報、知的財産権、なりすまし・匿名性

【学問的レベル】

情報社会の人間関係、コミュニケーションにおける価値の諸相

これまでの「情報モラル」は、消費者教育レベルの思考です。
情報倫理学の専門家である越智貢氏は、『情報倫理学 電子ネットワーク社会のエチカ叢書』(2000年)の中で、情報モラルについて以下のように述べています。

  • 情報モラルは、人間性ではなく、その行為が問題となる。
  • 情報モラルは、行為の結果のみが問われ、行為の動機は問われない。
  • 善い行為を行なう倫理ではなく、悪い行為を行なわないという保守的・消極的な倫理
    「善い行為」=「悪くない行為」
  • 行為の判断基準は個人の道徳的心情ではなく、法律等の知識や規則にある。
  • 情報モラルの最大の特徴は、システムやユーザの「安全」の倫理である。

今後は、知的創造者レベルの視点で、コミュニケーションしたり、情報発信したりする必要があります。

企業が情報モラルに取り組む際のポイント

ICTが普及し、企業経営や私たちの生活が激変しています。社会の変化に対応するためには、思考を変え、行動を変容する必要に迫られています。

消費者教育レベルの思考から探究・知的創造者レベルの思考へ

企業の従業員一人ひとりが、

  • デジタル資源を善く使い
  • コミュニケーションを善くとり
  • 多様性を認めあい
  • 人権に配慮し
  • さまざまな権利を尊重し、また、実現し
  • 共感し、協働し
  • 責任を果たし
  • 吟味思考(Critical Thinking)と創造思考をもって
  • より善き社会づくりに積極的に参画する

というデジタル・シティズンシップの思考に基づき行動することを提言します。